語尾について
講談では、語尾に「であります」をよく使います。
たとえば、「瑤泉院は亡き御主君の奥方様であります」とか。
現代人から見れば、ちょっと演説口調に聞こえるかもしれません。
でも声に出すとこっちの方がしっくりくるし、聞く方だって聞きやすい。
講談は「歴史を耳で聞く」芸です。
「亡き御主君の奥方様です」と言われると、語尾があまりに短い。
聞き手は「亡き御主君の奥方様」という情報を消化しきらないうちに、もう次の言葉を聞かなければならない。
ところが「であります」と言っている間に、頭の中で意味が整理できる。
ああ、そうか。亡くなった殿様の奥方のことか、と。
つまり「であります」というのは、講談師のためというより、聞き手のための時間だと思うんです。
もっとも、この便利な言葉も、日常生活ではまず使いません。
LINEで
「今日のランチは15時からであります」
とは言わないし、
電話口で
「先日お世話になった南和であります」
とは言わない。
普通は「です」を使います。
ところが、ちょっと改まったメールとかだと丁寧さのランクが上がるから、またややこしい。
「です」だと少し軽い気がする。
かといって「でございます」と書くと、急に百貨店の店員さんみたいになる。
「こちら本日の特売品でございます」。
いや、そこまでかしこまらなくてもいいんやけど、ってなる。
そこでいつも思うんです。
「でございます」と「です」の、ちょうど真ん中くらいの言葉はないものか、と。
日本語は敬語にうるさいと言われるくせに、この語尾の丁寧さについては、意外と選択肢が少ない。
「であります」は演説や講談。
「でございます」はド丁寧。
「です」はちょっとぞんざい。
その真ん中が、どうも見当たらない。
結局僕は、メールなんかで、最初の方だけ「ございます」を使って、徐々に「です」にシフトするという羊頭狗肉作戦で凌いでいる。
日本語の語尾は難しいのであります。